「そうしているうちに、ふと、私はあの、死んでいる自分を見つめていたもう一つの自分に、がっしりとまとわりついて離れて行こうとしなかった〈あるもの〉の正体が何であったのか、おぼろけにわかり始めたような気がして来ました。己の為したすべての行為と、そればかりではなく、行動にあらわさぬまでも、心に抱いただけにしか過ぎない恨みや怒りや慈しみや愚かさなどの結晶が、命そのものにくっきりと刻み込まれ、決して消えることのない烙印と化して、死の世界に移行した私を打擲していたのではあるまいか。そして、その思いは、由加子を思い浮かべることによって一瞬心をよぎった業というどこかで繋がって行く気がしたのです。」

——宮本輝『錦繍』

 
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